不動産の栄枯盛衰とスマートシティ

ビジネスに精通した不動産関連のプロフェッショナル

宇都 正哲

私が不動産に初めて関わったのは、負の遺産としてであった。バブル崩壊前まで不動産とは、右肩上がりに価格があがるものという「土地神話」に包まれていた。しかし、現実に地価は下がり、下がった地価によって倒産する企業が相次いだ。バブル崩壊以降に起きた土地神話の崩壊である。そこで、ある会社の再生を依頼された。不動産の時価評価によって、債務超過に陥った。そのため、保有する不動産をできるだけ高値で売るプランとノンコア事業の切り離しが優先事項とされた。まずはその不動産を有効活用するプランを策定しなければならなかった。ほとんどが地方部の土地で誰もが諸手をあげて欲しい土地ではなかった。しかし、そのなかでもいくつか活用プランを示して、営業に回ってもらった。
当初はまったくうまくいくとは思っていなかったが、2005年頃になると不動産市場も浮上してきて、2007年にはミニバブルとも言われたように不動産が活況を呈した。そのお蔭もあって、再生する企業の土地はおおむね売却の目途がついた。不動産は魔物である。不況の時は見向きもされないが、景気が良くなると一気に人気が急上昇する。わたしはこの現象を目の前でみてきた。次に、ノンコア事業の切り離しにウエイトが移った。その会社は日本で唯一民間事業者が運営する水道事業を保有していたことから、ノンコア事業として、それを売却する方針が打ち出された。そこで、売却にあたっての事業評価、水道供給事業者としての自治体との契約更新、M&Aセルサイドのアドバイザリー、クロージングまですべてを実施した。我が国初の民間水道事業の売却モデルとなり、全国的に注目を集めた。これが私とインフラとの出会いである。
さらに2010年以降になると「スマートシティ」という言葉が持てはやされるようになった。IT技術を活用して、都市を快適かつ安全にするものらしい。しかも、面白いことに日本の大手企業のほとんどがこのスマートシティに関心を示した。世界人口の増加と新興国の経済発展によって都市開発需要は世界的に旺盛であり、年間1000億ドルの需要が見込めた。このビジネス機会を捉えようとしたのである。特に海外でのビジネスに注力していた。まだ中国の成長が高かったこの時期、中国市場へ多くの日系企業が参入した。海外でスマートシティ都市開発プロジェクトに対する日本企業のビジネス機会は高いものの、官民が連携した形での都市開発プロジェクトの受注は非常に少ないのが現状である。そのため、まずは官民が連携するための器として協議会を組織し、その協議会において官民連携を具体化する方法論を試行した。そのパイロットプロジェクトとして、中国の上海市内の工業園区に対する日本企業連合としての提案活動を行った。
スマートシティはまだ進化をしつづけると考える。世界の都市開発需要が高ければ高いほど、本来スマートな都市が求められるからである。これからもその行く末を見守っていきたい。

略歴

東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了。博士(工学)
株式会社野村総合研究所に入社後、不動産、都市開発に関する受託調査を10年ほど行い、その後は戦略系コンサルタントとして、商社、デベロッパ、重電、弱電など幅広い企業の事業戦略や経営戦略に14年ほど携わってきた。専門は、不動産ビジネス、都市開発・インフラ関連のビジネスで、この領域におけるコンサルティング経験は300件を超える。
NHKへのゲスト出演、日本経済新聞での連載など、メディア出演や寄稿、講演も多数行っている。内閣府産業競争力会議国際展開WG有識者など政府委員等も歴任。

著書:「人口減少下のインフラ整備」(東京大学出版会):日本不動産学会、日本地域学会、資産評価政策学会より著作賞受賞、「水浄化技術の最新動向」(シーエムシー出版)、「ニッポンの水戦略」(東洋経済新報社)、「社会実験 -市民協働のまちづくり手法」(東洋経済新報社)など

担当科目

不動産ビジネス、ファシリティマネジメント、住宅と不動産ほか

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