楽しく創造性に富んだ
「人が集まる都市空間」をつくりたい

「人が集まる魅力ある都市空間を創る」

川口 和英

街は5年、10年の周期で変貌していきます。かつて活気があった駅前商店街が、郊外型ショッピングセンターの進出によりシャッターストリートになったり、反対に新幹線などの鉄道駅の開通や、橋が架かることで、街が活気づき、人の流れが大きく変わります。都市の繁栄は偶然ではなく、計画をする人間の知恵によるものです。
私は人をとりまく空間や都市との関係について研究を行っています。なぜ人がその空間に惹きつけられるのか、また都市のなかに活気や人気を生み出す人間の行動や人が集まる仕掛けづくりをどうすれば創れるのか、研究を行っています。ここで考えようとしている「集客」は、人間の入場者数を予測していくための数理工学的な要素もあれば、経営や地域への波及としての経済学的な視点、またある意味では文化芸術の分野も含んでいます。簡単には数式に乗らないデザインやイメージ等の感性の部分も集客の要素です。 長らく民間シンクタンクで、地域の開発計画を担当していました。そのようななか、90年代でとくに印象に残っている仕事は、横浜ドームの計画立案です。他のドームを徹底的に検証したうえで、立地、収支、経済効果、集客等あらゆる側面について、これまでの経験と知識を総動員し、緻密にプランニングをしました。計画そのものは景気後退等でいったん頓挫しましたが、とくに「公共事業はどうあるべきか」、「どうしたら人の集まる施設ができるか」を考え抜いたことは、その後の私の方向性を決定づけることになりました。
こどもの国(横浜市青葉区)では、安全で創造的な遊び場環境を構築するため、開園40周年事業の一貫の中で、「おとぎの広場(3000m2)」(平成18年3月4日に竣工)を設計・企画をする機会を得ました。「行列のできる遊び場」をめざし、企画から設計、施工にまで密着したプロジェクトとなりました。多くの子ども達が家族といっしょに遊んでくれている姿を見るのはとても楽しい気持ちにさせてくれます。 また、鎌倉でのフィールドワークや、都市研究は十年以上にわたり行っています。その美しい景観から観光地として、また高級住宅地として有名ですが、海が近いことから津波の心配もされています。総合的な景観、まちづくりや環境、災害時の対策等、鎌倉をフィールドに研究しています。 2020年の東京オリンピックに向かって、東京は大きく動き出しています。都市生活学部で学ぶ学生諸君もこの都市計画ビジネスでの活躍が期待されることでしょう。都市計画においては、一つの方向からのみではなく、多方向から物を考え、分析できる柔軟な発想、深い教養に基づいた分析、そしてなにより、与えられた知識ではなく、自分の経験で得た知恵を絞って考えることが必要とされます。人々が安心して、楽しく過ごせる街づくり、ひいては世界に誇れる魅力ある日本の国づくりを提案できる若い人材が輩出してくれることに期待したいと思います。

略歴

早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻修了。博士(工学)。技術士(建設部門:都市及び地方計画)。
三菱総合研究所研究員、鎌倉女子大学准教授、東京都市大学准教授を経て現職。 専門分野は都市開発・地域計画・建築計画・都市計画・集客施設・地球環境問題・社会資本論他。民間シンクタンクで地域開発や都市計画のコンサルティングに関わり、多くのプロジェクトや調査・研究を実施。鎌倉市まちづくり審議会委員、鎌倉市環境審議会委員、鎌倉市行政評価アドバイザー、鎌倉放課後こども教室検討委員会委員長、神奈川県開発審査会委員、川崎市建築審査会委員、こどもの国協会理事、NEDO (新エネルギー・産業技術総合開発機構)技術委員、沖縄県国際学術研究交流拠点整備調査委員会委員等を歴任。

著書:「環境スペシャリストをめざす」(東京教育情報センター)、「ごみから考えよう都市環境」(技報堂出版)、「社会資本整備と政策評価」(山海堂)、「新時代の公共投資へのシフト」(技報堂出版)、「公共事業」(ぎょうせい)、「集客の科学」(技報堂出版)など。

担当科目

集客学、集客空間論ほか