都市生活の能動性を喚起する
アーバンキャンププロジェクト

都市空間の読解から設計提案まで行うプロフェッショナル

中島 伸

近年、様々な分野で「まちづくり」という言葉が使われるようになり、まちづくりは大きな市民権を得た活動になっていると感じます。その一方で、人々それぞれが意識する「まちづくり」の言葉が使われている意図は多様で、まさに百花繚乱。その人が何を意味しているのかはわかりにくくなっている面もあるといえます。その中で、「まちづくり」とは、地域の課題解決の取り組みとして、ある面では認識されています。つまり、何か課題解決の目的をもった活動です。これはわかりやすい、「まちづくりとは何か?」の答えの一つです。
私が実践しているアーバンキャンププロジェクトは、こうしたある地域の特定の課題解決というアプローチとは異なった活動です。このプロジェクトは、課題解決型のプロジェクトとは言い切れないからです。ただ、ある都市の隙間と言えるような空閑地に、キャンプを通じた「仮初めのその都市住民」を生み出すプロジェクトです。アーバンキャンプの参加者は、通常のキャンプと異なり、都市の中に自らテントを設営し、まちに繰り出し、周囲の都市生活者に混じり、 都市インフラを駆使して、その都市を楽しみ、一晩そこで夜を明かします。明け方、普段とは異なる視点からその都市風景を眺めると、まるで自分が本当にその都市で暮らしているかのような体験をします。また、このちょっと不思議な体験は、周囲の参加者や地元住民の人との距離を縮めて、瞬間的なコミュニティを生み、コミュニケーションを掻き立て、様々な交流が生まれます。
ある人は、自らコーヒーを周りの人にふるまっていたり、声をかけたり、アーバンキャンプを通じてまちで発見してきたものを共有したり、おしゃべりを楽しんだり。私たちはまだまだ都市の中で能動的に、都市生活を楽しみ、また、それを他者と共有する喜びを体験することができるのです。
都市の中にぽっかりとあいた空地にテントを張り並べるという、非常にシンプルな空間操作と参加者に「ぜひ、このまちを楽しんで」というメッセージを添えるだけで私たちは都市の活き活きとした風景に出会います。ここでは普段の深刻な課題解決の議論とは、また異なる都市空間が醸成される本質的な姿を共有することができます。(もちろん、そのような議論は都市生活学にとっても非常に重要なものであることは論を待ちません。)おそらくアーバンキャンププロジェクトで都市は良くならないだろうが、アーバンキャンプができる都市は寛容性があり、創造性が発揮され、感応性の高い都市なのです。そこは、まさに能動的な都市生活者が活き活きとする、そんなステキな都市だと思います。そんな力を引き出すための都市デザインがもっと必要だと私は考えます。アーバンキャンプは活き活きとした都市の日常をつくるきっかけに過ぎません。都市空間生成のロジックを転換していく、しなやかな人間の暮らしの強さこそがまちづくりに求められているのではないでしょうか。これからも都市のわくわくする能動性を仲間たちと一緒に考え、実践していきたいと思います。

略歴

東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修了、博士(工学)。専門は、都市デザイン、都市計画史、都市形成史、景観まちづくり。中野区政策研究機構研究員、(公財)練馬区環境まちづくり公社練馬まちづくりセンター専門研究員、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻助教を経て、現職。日本都市計画学会論文奨励賞、日本不動産学会湯浅賞(研究奨励賞)博士論文部門受賞。

著書:『商売は地域とともに神田百年企業の足跡』(東京堂出版・2017)、『図説都市空間の構想力』(学芸出版社・2015)、『アーバンデザインセンター 開かれたまちづくりの場』(理工図書・2012)
論文:「戦災復興土地区画整理事業による街区設計と空間形成の実態に関する研究」、「Spatial Formation and Area Context in Block Planning: Analysis of the Land Readjustment Project in Tokyo from the Prewar Years to Post-World War II」 (International Planning History Society)、など

担当科目

建築空間論、空間デザイン演習(1)、(2)ほか