次世代に繋げる環境と人に
やさしい街の創造を目指して

環境配慮型のまちづくりにグローバルな視点で取り組む研究者

斉藤 圭

現在多くの東南アジアの街では,急激なスピードで進む都市開発によってそこここにあった緑や自然があっという間に消失し,元来その土地で土着の文化・生活を営んできた人々のライフスタイルや残された周辺エリアとのコンテクストも大きく変貌しています。できあがった街を目指して流入する人々と都市生活に伴う人工排熱等の増加も重なり,街なかの体感気温はますます上昇しています。2008年からの約8年間をマレーシア第二の都市ジョホールバルで過ごし,街の物的な発展と都市景観の移り変わりを生活者の視点から見てきました。「景気のいい今は誰も文句を言わない。ただ十年先のことは誰にも分からない。失った自然や環境を取り戻すには何十年,何百年かかるのか・・」と,現地の友人はどこか寂しげな表情で語っていました。工事現場をぐるりと覆う仮囲いに描かれたどこかの近未来都市のイメージと自分が育った街の記憶のギャップに,見えない将来の姿を危惧していたのかも知れません。
とは言え,グローバルな景気の動向と経済活動の上に成り立っている都市の開発や発展を眺めながら感傷に浸っているだけでは何も始まりません。よりよい未来の都市環境や都市生活を創造していくためには,現在の身の回りの環境の実態を定量的に把握し,それらを判断材料として繋ぎ合わせながら,将来の計画・デザインへと結びつけていくプロセスが重要です。海外での研究プロジェクトのひとつとして,マレー半島中西部の海岸沿いに位置する古都マラッカを採りあげました。この街にはオランダやイギリスなど時代によって異なる文化の影響が融合した魅力的な建築・街並みが旧市街地内に今なお多く残っており,2008年にはユネスコ世界文化遺産として登録されました。年間約1,000万人が訪れる,国を代表する観光都市のひとつなのですが,如何せん,緑が少なくてどうにも暑い。照りつける強烈な日差しと,観光客のすぐ脇をひっきりなしに通過する車両からの排熱や騒音も相まって,街をじっくりと散策するのは非常に大変です。そこで,周辺の温度や風速などの微気候,歩行者から歴史的建物・ファサードへの視線の確保,歩行者の滞留状況,街路の結びつき強度など,屋外環境に関する複数の視点を考慮しながら域内の都市熱環境の改善とそれによる歩行者回遊性の向上に繋がるような涼しいアーバンデザイン/地域緑化デザインの方法について,現地研究者を交えた研究・提案に取り組んでいます (Saito, et. al.2017)。今後はこれら東南アジアでの検討結果や手法を,夏場の気候が年々亜熱帯化していると言われる東京やその周辺における類似都市での展開も図っていきます。
このように,環境プランニング研究室では都市における街区や近隣エリアの抱える問題に対して,都市環境工学や景観工学の視点から見た科学的・定量的な手法やデータを活用しながら,将来的な低減・解決に繋げる環境配慮型の都市環境デザイン手法・プロセス開発について研究を行っています。研究プロジェクトを通じ,実際の現場での実測や聞き取りを行い,自身の肌で感じた生の情報を大切にし「その土地ならでは」の文化・歴史的な背景などもくみ取れるよう意識しながら研究を進めています。得られた成果は日本のみならず国際的な視野で実社会に還元できるよう研究・教育活動に取り組んでいきます。

略歴

芝浦工業大学大学院工学研究科地域環境システム専攻博士後期課程修了。博士(工学)。
日本学術振興会特別研究員DC2・同PD,マレーシア工科大学(University Technology Malaysia)建築・都市環境学部ランドスケープアーキテクチュア学科上級講師を経て現職。同大学リサーチグループGreenovationメンバー。
専門分野は都市環境デザイン,アジア・都市環境解析,空間情報処理技術の応用 他。海外大学との共同研究プロジェクトを継続・展開中。

著書:Kei Saito, Ismail Said, Michihiko Shinozaki, "Evidence-based neighborhood greening and concomitant improvement of urban heat environment in the context of a world heritage site - Malacca, Malaysia", Journal of Computers, Environment and Urban Systems, Vol. 64, pp. 356-372, Jul. 2017, DOI: 10.1016/j.compenvurbsys.2017.04.003 ほか

担当科目

都市の環境,都市デジタルシミュレーション(1) (2) ほか