国際的な観点を踏まえ、
都市に価値を創造するために

社会に持続的な価値を実現する国際協力のプロフェッショナル

沖浦 文彦

筆者は2019年3月までの約25年間、JICA(国際協力機構)にてODA(政府開発援助)実務に携わりました。2012年から2015年にかけてベトナムに赴任していた時のこと、河川等の「水質保全」に関する協力プロジェクトがあり、日本から経験豊富な専門家が派遣されていました。その方が3年以上の任期を終えてご帰国されるにあたり、結局のところ一番の問題は何かと質問をしました。「予算が」「機材が」「技術レベルが」などの事項を予期していたところ、その回答は「ベトナムの公務員制度」でした。公務員制度に問題があるが故に、住民のために熱心に働こうとか、予算をなんとか獲得しようなどの熱意が、人にも組織にも育まれにくく、それが水質保全対策にも問題を生じさせているのでは、とのこと。

ベトナムでも都市開発は急激に進んでいる
(ホーチミン市)

「水質問題」と「公務員制度」。一見遠く見えるこれらの間には、幾重にも要素がつながっていますが、そのような構造の中で、問題の本質は「公務員制度」ではないかとのご見解。このやり取りは「AだからBである」(例:技術水準が低いから、水質が保全されない)というな、単純な原因と結果の関係(因果関係)で現実社会を見ることの危うさを認識させてくれるとともに、基本的に因果関係を前提としたODAプロジェクトの設計、実施、評価のあり方を、改めて考える契機となりました。

日曜日の朝、街角で朝食を楽しむベトナムの人々

国際協力とは、異なる国々ぞれぞれの背景を背負う人や組織が、「技術」「アイデア」「資金」などを間に挟んでお互いに協力し、目的を達成しようという試みです。その一つであるODAは、都市問題を含め、交通、環境、教育など多様な要素が複雑に絡み合った社会的問題を対象とします。協力相手国が抱える様々な問題の中から、いかなる問題を切り取り、それを解決するための「協力プロジェクト」を組成、実施、評価をしながら次の展開を考える、その過程では前述の「水質問題と公務員制度」の例のように、多くの要素の有機的な連関を考えた上で、問題の本質を見極めてアプローチする必要があります。そこで必要となる「マネジメント」や「しくみ」を考え、プロジェクトを実行するということを、筆者は経験してきました。
その過程で必要となるのは、「相手を知る」、「自分を知る」、そして「問題の本質を見極める」ことと言えるでしょう。国が変われば、持っている情報量は激減します。街角の景色一つをとっても、生まれ育った国であれば、その内容、意味や、更に目には見えない制度や慣習などをごく自然に理解し、あるいは推測できます。しかし国が変わると看板に書かれた文字からして読めず、そこに住む人々の生まれ、生活、喜びや悩み、制度(しくみ)、権限やパワーの構造、その源泉、慣習、価値観、文化などをわかることは容易ではありません。そして、「水質問題」の例のように、目前の問題が生じる背景や望ましい解決策の把握、検討も、単純な因果関係で考えると誤ることとなります。「国際」的な素養とは、このような彼我の違いによる難しさを認識し、謙虚に、そして効果的にその違いを把握する、更にはその違いを面白く感じて、その違いがあるが故に出来ることを成し遂げようとする(違いを活用する)態度と知恵を持つことと言えるのではないでしょうか。筆者はこのような難しい事柄に取り組むためのフレームワークに関心を持っています。
そして、「相手を理解し」「自らとの違いを活用する」態度や知恵のセンスは、「国際」に限らず、「国内」においても同様に重要です。そしてこれらを身につけるのに国際的な活動はとても効果的であり、この「国際経験」の「国内への活用」のあり方は、筆者として今後考えていきたいテーマの一つです。

略歴

大阪大学大学院博士前期課程環境工学専攻修了、法政大学大学院社会科学研究科経済学専攻修士課程修了、千葉工業大学大学院博士後期課程社会システム科学研究科マネジメント工学専攻修了。博士(工学)、修士(経済学)。
(株)住信基礎研究所において土地利用計画策定等に従事した後に、JICA (Japan International Cooperation Agency)に移り、地球環境部、国内機関、タイ事務所、ベトナム事務所等にて、政府開発援助(ODA)実務に約25年携わる。その間ODAの「プログラムマネジメント」に着目し、研究と実践を進める。2019年4月より現職。公的・社会的価値のプロジェクト・プログラムマネジメントによる創出、キャパシティデベロップメント、これらを通じた国際協力などを研究。

論文:「政府開発援助(ODA)におけるプログラムマネジメント組織体制観点からの成果発現のための充足条件の考察」, Journal of International Association of P2M, Vol 13, No.2, pp167-191,2019“Study on Program Profiling and Implementation Management with Intervention from Outside for Sustainable Value Creation in Ambiguous and Social Missions”, Journal of Chemical Engineering of Japan, Vol 51, No. 9, pp821-825, 2018、ほか

担当科目

都市開発プロジェクト、都市のインフラ、など